RESEARCH

私の専門は毒素科学であり、これまで、有毒生物、植物、また遺伝子変異に係る物質を研究対象としてきました。
有毒生物の研究に興味がある理由は、有毒生物が産生する毒液は生理活性物質の宝庫で、それらの活性はつよく、生体に対して微量で顕著な毒性を示します。
当研究室では、これまで主に、毒ヘビの出血毒素、神経毒素について、新規毒素の発見、また、その機能と構造解析を行っています。
生体分子への特異性、また、作用機序の詳細がわかっていない毒素はまだまだ数多く存在します。
植物研究では、害虫に対する防御システムの一つとして機能していると考えられるプロテアーゼインヒビターの研究を行っています。
当研究室では、これまで毒蛇中から、新規のタンパク質を多く発見してきました。
南西諸島に生息する出血毒を主体とするクサリヘビ科ハブは、気性が荒く、個体間でお互い噛み合うことがあります。
では、なぜ、ハブ同士はかみ合っても死なないのでしょうか?
当研究室では、毒ヘビ血液中に自己の毒に結合し、その毒性を阻害するタンパク質を数多く発見しました。
当研究室で発見したタンパク質の中でも Small serum protein (SSP-1 ~ SSP-5)については、それらの特異的な毒素の特定まで行っています。


私たちは、物質の性質や機能と構造の相関を理解したい
当研究室で発見したタンパク質の中でも Small serum protein (SSP-1 ~ SSP-5)については、それらの特異的な毒素の特定まで行っています。
こちらの図は、私たちが発見したSSP-2と、その標的毒素との複合体をタンパク質結晶構造解析より明らかにしたものです。
インヒビター(SSP-2)が、どのような相互作用で毒素と結合し、毒素阻害活性を示しているのかを明らかにすることに成功しました(N.Shioi, et al., JBC 294, 2018)。
シンガポール国立大学との共同研究を基盤に、多くの致死被害を出しているコブラ科毒の研究を行っています。その一つにアフリカ大陸に生息する猛毒ヘビ、マンバ毒の研究について最近多くの研究成果を見出してきました。
コブラ毒の主成分は、Three finger toxinファミリーです。この毒素は、特定の受容体やイオンチャネルを強く結合します。
私たちは、ナノグラムで致死活性を持つニコチン性アセチルコリン受容体結合毒素であるニューロトキシンの特異性を、変異体解析と生理学実験より明らかにし、現在分子シュミレーションモデルを用いて受容体の異なるサブユニットに結合できるトキシンをデザインし
ています。また、毒性の相乗効果を引き起こす2量体のThree finger toxinに着目し、その作用機序解析を行っています(N. Shioi, et al., Biochemical Journal 478, 2021)。


当研究室では、単子葉植物のユリ科に着目しています。ヒヤシンス球根中から十数巣類の異なるBowman-birk inhibitor (セリンプロテアーゼインヒビター)を発見し、それぞれのセリンプロテアーゼ阻害の特異性をしらべてきました。
ヒヤシンスの学名より、Hyacinthus orientalis serine protease inhibitors (HOSPI)と命名しています。同じタンパク質ファミリーのインヒビターがどのようなしくみで生成されているのかにも興味があり、これらが翻訳後修飾の特異的な酵素の分解により数種類のインヒビターができていることを明らかにしました。この研究に関わる酵素の同定はウィーン大学との共同研究で進めています。